新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、多くの企業でテレワークが普及しました。現在では感染症対策という目的だけでなく、多様な働き方を実現する手段として定着しつつあります。自宅で仕事をすることが当たり前になった人も少なくありません。
一方で、働く場所が会社から自宅へ移ったことにより、防災の考え方にも変化が求められるようになりました。
従来の企業防災は、オフィスで働くことを前提としていました。避難経路の確認や職場での防災訓練、帰宅困難者対策などが中心でした。しかし、テレワークが広がった現在では、「自宅で災害に遭うこと」を前提とした備えが欠かせません。
企業が従業員を守るためには、オフィスだけでなく、自宅で働く環境も視野に入れた防災対策が必要になっています。
今回は、「テレワーク時代の防災」について考えてみたいと思います。

働く場所が変われば、防災も変わる
オフィスには防災設備が整っています。
消火器や火災報知設備、非常口、避難経路、備蓄品など、多くの企業では災害を想定した環境が整備されています。
しかし、自宅ではどうでしょうか。
家具が固定されていない。
非常食を備蓄していない。
避難場所を知らない。
こうした状況は決して珍しくありません。
会社では防災意識が高くても、自宅では十分な備えができていない人も少なくありません。
テレワークが普及した今、防災の主役は「会社」だけではなく、「家庭」にも広がっているのです。
自宅は本当に安全なのか
「自宅だから安心」と考えてしまう人もいます。
しかし、自宅にも多くの危険があります。
地震による家具の転倒。
ガラスの飛散。
停電による通信環境の喪失。
断水による生活への影響。
特に仕事部屋として使用しているスペースは、長時間過ごす場所だからこそ安全対策が重要になります。
パソコンの近くに背の高い棚がないか。
避難経路が確保されているか。
デスク周辺に落下物の危険がないか。
こうした点検は、自宅で働く人にとって欠かせない防災対策です。
通信環境が生命線になる
テレワークでは、通信環境が業務の基盤となります。
しかし災害時には、
停電。
通信障害。
基地局の停止。
回線の混雑。
などによってインターネットが利用できなくなる可能性があります。
その結果、業務だけでなく情報収集や安否確認にも支障が生じます。
企業は従業員と連絡を取るための複数の手段を準備しておく必要があります。
また、従業員自身もスマートフォンのモバイル通信やモバイルバッテリーなど、通信手段を確保しておくことが重要です。
テレワークでも安否確認は必要
「自宅にいるから安全」とは限りません。
災害は自宅でも発生します。
そのため、企業にはテレワーク中の従業員に対する安否確認体制が求められます。
誰が無事なのか。
誰が支援を必要としているのか。
業務継続が可能なのか。
こうした情報を迅速に把握できる体制は、オフィス勤務時と同じように重要です。
定期的な安否確認訓練を実施し、災害時にも確実に機能する仕組みを整えることが必要です。
家族と仕事の両立という課題
テレワーク中に災害が発生すると、多くの場合、家族も一緒に被災します。
子どもの安全確認。
高齢の家族の避難支援。
ペットへの対応。
企業にいる時とは異なり、家庭内で多くの役割を担うことになります。
そのため、災害時には仕事よりも家族の安全確保が優先される場面もあります。
企業側もその状況を理解し、柔軟な対応を取ることが重要です。
「仕事を続けられるか」ではなく、「まず安全を確保できているか」という視点が必要になります。
テレワークは災害に強い働き方でもある
一方で、テレワークには防災上の大きな利点もあります。
災害時に無理な出社を避けられることです。
豪雨や台風、大雪などで交通機関が停止しても、自宅が安全で通信環境が確保されていれば業務を継続できます。
また、通勤途中の事故や帰宅困難を避けることもできます。
近年、多くの企業がBCP(事業継続計画)の中でテレワークを重要な対策として位置付けているのは、このためです。
ただし、その効果を発揮するためには、自宅で安全に働ける環境づくりが前提となります。
防災教育も変わる必要がある
これまでの企業防災は、
避難訓練。
消火訓練。
オフィスでの災害対応。
が中心でした。
しかし、これからは、
自宅での備蓄。
家具固定。
停電対策。
通信障害への対応。
家庭での避難計画。
なども防災教育に取り入れていく必要があります。
企業が従業員へ家庭防災の情報を提供することも重要になるでしょう。
働き方が変われば、防災教育も進化しなければなりません。
企業と従業員が共に備える
テレワーク時代の防災は、企業だけでは実現できません。
従業員一人ひとりの備えも欠かせません。
企業は制度や連絡体制を整備する。
従業員は自宅の安全対策を進める。
双方が協力して初めて災害への対応力が高まります。
「会社が何とかしてくれる」
「自分だけで何とかする」
どちらでもありません。
企業と従業員が役割を分担しながら備えることが大切なのです。

新しい働き方には新しい防災が必要
テレワークは働き方を大きく変えました。
そして、防災の考え方も変える必要があります。
これからの企業防災は、オフィスだけを守るものではありません。
自宅という新しい職場も含めて、安全を考える時代になっています。
自宅で働く人が安心して仕事を続けられる環境を整えることは、企業の事業継続にもつながります。
また、従業員自身が家庭の防災力を高めることは、家族の命を守ることにも直結します。
災害は場所を選んで発生するわけではありません。
だからこそ、「どこで働いていても命を守れる備え」を進めることが、これからの企業と働く人の新しい防災の姿ではないでしょうか。


