なぜ防災訓練は「形だけ」になってしまうのか

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秋になると各地で防災訓練が行われます。整列、開会式、消火器体験、非常食の試食。写真も撮り、無事終了。しかし数年後、本当の災害が起きたとき、「思ったように動けなかった」という声が上がることがあります。これは防災訓練の“未実施”ではなく、形骸化という問題です。

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形骸化とは、実施しているにもかかわらず、実際の対応力向上につながっていない状態を指します。回数は重ねているのに、現場で活かされない。そこにはいくつかの構造的な要因があります。

第一に、「実施すること」が目的化している点です。本来、防災訓練は課題を発見し、改善するための機会です。しかし現実には「毎年の恒例行事」「行政からの要請への対応」となり、実施そのものがゴールになってしまうことがあります。終わった時点で安心し、振り返りや検証が十分に行われないのです。

第二に、想定が現実とかけ離れている問題があります。晴天の昼間、参加者は元気な人ばかり、通信は正常――このような前提での訓練は、実際の災害とは大きく異なります。夜間や豪雪、停電下での対応、在宅避難者の孤立、高齢者の移動困難といった現実的課題が組み込まれていない場合、いざという時に戸惑いが生まれます。

第三に、参加者の固定化です。毎年同じ顔ぶれで行われる訓練では、新しい視点が入りません。働き盛り世代や若年層の参加が少ない地域では、実際の災害時に動くべき層が訓練経験を持たないままになります。結果として、現場対応が一部の人に集中します。

防災を所管する 内閣府 も実践的訓練の重要性を示していますが、現場では従来型の形式が根強く残っています。これは「失敗を避けたい」という心理とも関係しています。訓練で混乱が起きることを恐れ、予定調和の進行を優先してしまうのです。しかし本来、訓練は失敗するためにあります。失敗を通じて課題を可視化しなければ、改善は進みません。

特に豪雪地域では、形骸化の影響が深刻です。雪のない時期にだけ行う訓練では、除雪体制や屋根雪事故、長期停電時の暖房確保などが十分に検証されません。実際のリスクに即していない訓練は、安心感だけを生み、本番での脆弱性を覆い隠します。

では、形骸化を防ぐには何が必要でしょうか。

第一に、シナリオ型訓練への転換です。「夜間に震度6強」「豪雪で道路寸断」「避難所が満員」など、具体的かつ厳しい想定を設定する。状況付与型で進行させることで、現実に近い判断力が養われます。

第二に、役割別の実践です。情報伝達班、安否確認班、物資管理班など、実際の役割を体験させる。自分の動きが見えると、当事者意識が生まれます。

第三に、振り返りの徹底です。「うまくいったか」ではなく、「何ができなかったか」を議論する。時間の測定や連絡経路の確認など、可能な限り具体化することが重要です。

第四に、多世代参加の仕組みづくりです。子ども向けクイズ形式、スマートフォンを使った安否確認体験など、参加しやすい設計が必要です。防災は一部の人の責任ではなく、地域全体の力だからです。

防災訓練は、地域の“安心イベント”ではありません。むしろ、不安や弱点をあぶり出す場であるべきです。予定通りに進んだ訓練ほど、実は課題が見えにくいこともあります。

災害は必ず想定を超えてきます。だからこそ、訓練は想定に縛られてはいけません。形式を守ることよりも、実効性を高めることが重要です。

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防災力の差は、訓練の回数ではなく、質で決まります。形だけの安心から一歩踏み出し、「本当に動けるか」を問い続ける姿勢こそが、地域のレジリエンスを育てるのです。

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