災害避難時の心理的ストレスについて、東日本大震災と能登半島地震では、それぞれの時代背景や災害の特徴を反映した形で深刻な問題が発生しました。両災害を比較すると、共通点とともに、対策面での進歩も見えてきます。

まず、東日本大震災(2011年)における心理的ストレスの状況です。この災害は地震、津波、原子力発電所事故が同時に発生した未曽有の複合災害でした。多くの被災者は、突然家族や住まい、地域社会を失い、強い喪失感と恐怖に直面しました。特に津波被災地域では、目の前で人や町が流される光景を目撃した人も多く、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が長期にわたって問題となりました。
避難所生活では、避難者の数に対して施設や物資が圧倒的に不足し、過密状態が続きました。プライバシーのない環境、不十分な暖房、先の見えない避難生活が重なり、強い不安や抑うつ状態に陥る人が少なくありませんでした。また、「原発事故による放射線への不安」という、目に見えない脅威が加わったことで、心理的ストレスはさらに複雑で深刻なものとなりました。これらの精神的負担は、災害関連死の増加にもつながったと指摘されています。
次に、能登半島地震(2024年)における状況です。能登半島地震では、東日本大震災の教訓や、新型コロナウイルス流行を経験した社会背景があり、避難所運営において心理的配慮が比較的早い段階から意識されました。避難所では、簡易パーテーションの設置や、避難者同士の距離確保、体調確認などが行われ、精神的負担を軽減する工夫が見られました。
しかし、それでも心理的ストレスが小さかったわけではありません。能登地域は高齢化率が高く、高齢者が慣れない集団生活を送ることによる不安や孤立感が大きな問題となりました。また、半島という地理的特性から支援の到着が遅れ、断水や寒さが長期化したことで、「見捨てられているのではないか」という不安感が心理的負担を強めました。
両災害に共通して見られたのは、「我慢を強いられる心理」です。多くの被災者が周囲への遠慮から不安や苦しさを口に出せず、心の不調を抱え込んでしまいました。その結果、睡眠障害や体調不良、意欲低下などが表面化し、生活再建への意欲を削ぐ要因となりました。
一方で、能登半島地震では、心のケアの重要性が以前より認識されていたことから、保健師や心のケアチームによる声かけ、巡回相談が比較的早く行われた点は大きな進歩といえます。これは、東日本大震災の経験が確実に活かされた結果です。

東日本大震災と能登半島地震の事例から分かることは、心理的ストレスは災害の規模にかかわらず必ず発生し、放置すれば深刻な二次被害につながるという点です。今後の災害対応では、物資支援やインフラ復旧と同時に、被災者の心の状態に目を向け、早期から継続的な心理的支援を行うことが、命と生活を守るうえで不可欠であるといえるでしょう。


