災害発生時の避難生活において、トイレ不足は水や食料と並ぶ深刻な問題です。排泄は生理現象であり、我慢することはできません。しかし多くの災害現場では、トイレの数や機能が圧倒的に不足し、被災者の健康や尊厳を大きく損なってきました。トイレ問題は目立ちにくいものの、避難生活の質と安全性を左右する極めて重要な課題です。

災害時にトイレが不足する理由
既存トイレの使用不能
地震や豪雨では、建物自体は無事でも上下水道が寸断されることがあります。その結果、水洗トイレが使用できなくなり、「トイレはあるが使えない」という状況が大量に発生します。
避難所として使われる学校や体育館でも、配管の破損や断水により、トイレ機能が停止するケースは珍しくありません。
簡易トイレの配備遅れ
簡易トイレや仮設トイレは、要請から設置までに時間がかかります。特に被害が広範囲に及ぶ場合、設置作業員や資材が不足し、初動期にトイレが決定的に足りない状態が続きます。
想定を超える避難者数
自治体の防災計画では、一定の避難者数を想定していますが、実際の災害ではそれを大きく上回る人数が避難することがあります。トイレ数が追いつかず、長蛇の列や使用制限が発生します。
トイレ不足がもたらす健康被害
排泄の我慢による体調悪化
トイレが不足すると、人々は排泄を我慢するようになります。その結果、膀胱炎、便秘、腸閉塞、脱水症状などの健康問題が発生しやすくなります。
特に高齢者や女性、子どもは影響を受けやすく、深刻化しやすい傾向があります。
水分摂取の抑制
「トイレに行きたくない」という理由から、水分摂取を控える人が増えます。これにより、脱水症やエコノミークラス症候群のリスクが高まります。
トイレ不足は、水不足問題とも密接に関係しています。
衛生環境の悪化と感染症
使用回数が集中したトイレはすぐに汚れ、悪臭や害虫が発生します。清掃や消毒が追いつかない場合、ノロウイルスなどの感染症が拡大する恐れがあります。
避難所で起こるトイレを巡るトラブル
長時間待ちと混乱
トイレ待ちの行列は、身体的負担だけでなく心理的ストレスを増大させます。順番を巡る口論や、不公平感による対立が生じることもあります。
プライバシーと安全の問題
仮設トイレの設置場所や照明が不十分な場合、特に夜間は女性や高齢者にとって大きな不安要素となります。覗きや犯罪への恐怖から、トイレ利用を避ける人もいます。
不適切な排泄行為
トイレが足りないことで、屋外や建物の陰での排泄が発生するケースもあります。これは衛生環境を著しく悪化させ、地域全体の健康リスクを高めます。
実際の災害で見られた課題
過去の大規模災害では、
・トイレの数が圧倒的に不足
・清掃用品や消臭剤が足りない
・女性用トイレが少ない
・介助が必要な人への配慮不足
といった問題が繰り返し指摘されてきました。
トイレ問題は「後回し」にされやすく、改善が遅れる傾向があります。
トイレ不足への備えと対策
個人でできる備え
- 携帯トイレや凝固剤を備蓄する
- 非常用トイレの使い方を事前に確認する
- 夜間用に懐中電灯を準備する
避難所・行政の役割
自治体は、簡易トイレの迅速な配備、トイレ清掃体制の確立、男女別・多目的トイレの確保を計画段階から組み込む必要があります。
また、トイレ問題を「命と健康の問題」として明確に位置づけることが重要です。

まとめ
避難時のトイレ不足は、被災者の尊厳と健康を直接的に脅かす重大な課題です。排泄の我慢や水分制限は、二次的な健康被害を引き起こし、災害関連死の要因にもなり得ます。
災害への備えとは、目に見える被害だけでなく、生活の基盤となる「排泄環境」まで具体的に想定することです。
個人の備え、避難所運営、行政の計画が連動することで、トイレ不足による苦しみを最小限に抑えることができるのです。

