近年、災害時の情報伝達は大きく変化しています。スマートフォンやインターネットの普及により、避難情報や支援制度、安否確認などの多くがデジタルを通じて発信されるようになりました。自治体のホームページ、SNS、防災アプリ、LINEによる通知など、情報は以前よりも早く広く共有されるようになっています。しかし、この便利な情報環境の裏側で、新たな問題が生まれています。それが「デジタル弱者の孤立」です。

デジタル弱者とは、スマートフォンやパソコンなどの情報機器を使いこなすことが難しい人々を指します。特に高齢者の中には、インターネットを日常的に利用していない人も多く、災害時の情報を十分に受け取れない場合があります。災害後の社会では、行政の発表や支援制度の案内などがインターネットを中心に発信されることが増えており、デジタル機器を使えない人は重要な情報から取り残されてしまう可能性があります。
災害直後の段階では、避難情報や安否確認の手段としてデジタルツールが大きな役割を果たします。SNSやメッセージアプリを通じて家族や友人と連絡を取り合い、最新の状況を共有することができます。しかし、これらのツールを利用できない人は、情報の流れから外れてしまうことがあります。家族と連絡が取れず不安な時間が長く続いたり、地域の状況を把握できなかったりすることもあります。
さらに、復旧・復興の段階に入ると、デジタル弱者の孤立はより深刻になります。災害後には住宅再建支援や生活支援金、各種の補助制度など、多くの行政情報が発信されますが、その多くがインターネットを通じて公開されています。スマートフォンやパソコンを使いこなせる人は、こうした情報をすぐに確認し、必要な手続きを進めることができます。一方で、デジタル機器に不慣れな人は、制度の存在そのものを知らないまま時間が過ぎてしまうことがあります。
この問題は、過去の災害でも指摘されています。例えば、2011年の 東日本大震災 では、SNSやインターネットが安否確認や情報共有に大きく活用されました。しかしその一方で、インターネットを利用できない高齢者などが情報から取り残されるケースも見られました。デジタル技術の普及は大きな利点をもたらしましたが、同時に情報格差という新たな課題も浮き彫りになったのです。
また、デジタル弱者の孤立は心理的な問題にもつながります。周囲の人々がスマートフォンで情報を得たり、連絡を取り合ったりしている中で、自分だけが情報を得られない状況は強い不安を生みます。「自分だけ取り残されているのではないか」という感覚が孤立感を深め、精神的な負担を大きくすることがあります。特に一人暮らしの高齢者にとっては、情報不足がそのまま生活の不安につながる場合もあります。
このような問題に対応するためには、情報発信の方法を多様化することが重要です。デジタルだけに頼るのではなく、紙の掲示物や地域の回覧板、ラジオ放送、訪問による説明など、複数の手段を組み合わせて情報を届けることが必要です。災害対応を担う 内閣府 でも、災害時には多様な情報伝達手段を活用することの重要性が指摘されています。
また、地域コミュニティの役割も大きな鍵になります。自治会や地域団体が高齢者の状況を把握し、必要な情報を直接伝えることで、デジタル弱者の孤立を防ぐことができます。近所同士の声かけや見守り活動は、災害時の重要な支えになります。
さらに、平時からの備えとしてデジタル機器に触れる機会を増やすことも有効です。スマートフォン講習会や地域のICT教室などを通じて、基本的な操作を学ぶ機会をつくることで、災害時の情報取得の手段を広げることができます。すべての人が高度な操作を覚える必要はありませんが、「必要な情報を確認できる」最低限の利用環境を整えることは大きな意味があります。
災害に強い社会をつくるためには、最新の技術を活用することが重要です。しかし同時に、その技術を利用できない人々が取り残されないよう配慮することも欠かせません。デジタル弱者の孤立は目に見えにくい問題ですが、放置すれば情報格差や生活再建の遅れにつながる可能性があります。

災害後の社会では、情報が人々の行動や生活を大きく左右します。だからこそ、誰もが必要な情報を受け取ることができる環境を整えることが重要です。デジタル技術の恩恵を活かしながら、すべての人がつながり続けられる社会を目指すことが、これからの防災の大きな課題と言えるでしょう。


