日本語表示のみの避難情報は、外国人住民や日本語理解が十分でない人にとって「命に直結する情報が届かない」重大な課題です。観光客、技能実習生、留学生、永住者など背景は多様で、地域によっては人口の数%〜1割以上を占めます。ここでは何が問題なのか/なぜ起きるのか/どう改善するかを実務視点で整理します。
■ 何が問題なのか(具体的リスク)

1) 情報が「理解」されない
- 「避難指示」「警戒レベル4」などの行政用語が難解
- 漢字・敬語・長文表現が障壁
→ 放送は聞いたが意味が分からず行動しない。
2) 行動につながらない
- 「避難所」の概念がない国もある
- 行政不信や在留資格への不安
→ 情報があっても避難をためらう。
3) 誤情報が拡散しやすい
- 母語SNSコミュニティで未確認情報が先行
→ 正確な公式情報が埋もれる。
4) 二次被害の増加
- 豪雪での一酸化炭素中毒
- 地震後の余震行動ミス
- 水害時の車移動判断誤り
→ 日本特有のリスクが伝わらない。
■ なぜ起きるのか(構造的要因)
① 日本語前提の設計
防災無線・広報・回覧板が日本語中心。
② 用語の専門化
制度上の表現(警戒レベル、土砂災害警戒情報)が一般にも難しい。
③ 多言語運用の負荷
翻訳コスト・即時性・人材不足。
④ 平時の接点不足
外国人コミュニティと行政の関係が薄い。
外国人住民数や在留状況の統計は 出入国在留管理庁 が公表しています。国の多文化共生防災の方向性は 内閣府 でも示されています。
■ 改善の基本原則(実務で効く順)
1) 「やさしい日本語」を標準化(最重要)
- × 避難指示を発令
○ 今すぐ安全な場所へ逃げてください - × 土砂災害警戒区域
○ 山がくずれる危険がある場所
短文・結論先出し・具体的行動が鉄則。
2) 多言語は“優先言語を絞る”
地域の在留上位言語に集中。
例:英語・中国語・ベトナム語など(地域実態で選定)。
3) 図・色・ピクトグラムを併用
- 矢印(避難方向)
- 波(津波)/山崩れアイコン
- 赤=危険、緑=安全
文字依存を下げる。
4) 発信チャネルを分散
- 公式SNS多言語投稿
- LINE英語配信
- WhatsApp地域グループ
- 企業・学校経由の一斉連絡
行政→キーパーソン→母語コミュニティのルートを確立。
5) 避難所での即応体制
- 多言語掲示テンプレート常備
- 翻訳アプリ端末
- 通訳ボランティア名簿
- 「在留資格に影響なし」を明示
■ 豪雪・地震・水害別に伝えるべき具体文例
豪雪
- 車の中でエンジンをつけたまま寝ないでください(危険)
- 屋根に一人で上らないでください
地震
- 強いゆれの後も余震があります。建物に近づかないでください
- エレベーターは使わないでください
水害
- 水がひざまで来たら歩くのは危険です
- 地下や川に近づかないでください
■ 自治体・自治会が今すぐできること
- やさしい日本語版の避難テンプレ作成
- 上位3言語の即時配信文を事前準備
- 外国人参加型の避難訓練
- 防災チラシにQRで多言語ページ誘導
- 企業(技能実習・特定技能雇用)と協定

■ まとめ
日本語表示のみの避難情報は「翻訳不足」の問題ではなく、設計思想の問題です。
効果的なのは
- やさしい日本語を基本にする
- 優先言語を絞って即時多言語化
- 図解とSNSを活用
- 平時からコミュニティとつながる
災害時だけ整備しても間に合いません。平時の準備が最大の対策です。


