地震の後に井戸水が濁ったり、異臭がしたり、成分が変化する「井戸水汚染」は、被災地でしばしば報告される現象です。これは単一の原因ではなく、地盤・地下水・人工構造物の変化が複合的に作用して起こる二次的な災害です。以下では、地震後に井戸水汚染が発生する主なメカニズムを、段階的に解説します。

地盤の破壊と地下水流路の変化
地震によって地盤に亀裂やずれが生じると、地下水が流れる経路(地下水流路)が変化します。通常、地下水は地層のすき間や割れ目をゆっくり流れていますが、地震による破砕でこれまで隔てられていた水層同士がつながることがあります。
その結果、
- 濁りやすい浅い地下水
- 鉄分・硫黄分を多く含む深層地下水
- 海水や温泉成分を含む水
などが混ざり、井戸水の水質が急変します。これは「新たな汚染が入った」というより、地下での水の混合が原因である場合が多いのが特徴です。
液状化による細粒土・有機物の混入
砂質地盤で液状化が発生すると、砂やシルト、粘土などの細粒土が地下水中に大量に巻き上げられます。これらが井戸に流入すると、**水の濁り(白濁・茶濁)**が生じます。
また、地表近くの有機物や腐植物質が地下水に混入することで、
- カビ臭
- 腐敗臭
- 土臭さ
といった異臭の原因にもなります。このタイプの汚染は、時間の経過とともに沈殿・ろ過され、徐々に改善するケースもあります。
生活排水・汚水設備の破損
地震では、目に見えない地下のライフラインが大きな被害を受けます。特に、
- 下水管・排水管の破断
- 浄化槽や汚水桝の破損
- 古い井戸の側壁や蓋の損傷
が起きると、大腸菌などの病原性微生物を含む生活排水が地下へ漏出し、井戸水に到達する可能性があります。これは健康被害につながるおそれがあるため、最も注意が必要な汚染形態です。
地表汚染物質の流入
地震によって地表に亀裂が入ると、これまで地下に入りにくかった物質が直接浸透します。例えば、
- ガソリン・灯油などの燃料
- 農薬・肥料
- 工場や倉庫から流出した化学物質
などが雨水とともに地中へ入り、井戸水を汚染することがあります。特に浅井戸では、この影響を受けやすく、地震後の降雨が汚染を拡大させる場合もあります。
塩水化・海水侵入
沿岸部や埋立地では、地震による地盤沈下や断層活動により、海水が地下水系に侵入することがあります。その結果、井戸水が塩辛くなり、飲用や農業用水として使えなくなる「塩水化」が起こります。これは自然回復に長い時間がかかることもあります。
揚水条件の変化による影響
地震後、断水により井戸水の利用が急増すると、地下水位が急激に低下し、底部の沈殿物が巻き上がることで水質が悪化する場合もあります。これは汚染というより、利用条件の変化による二次的な水質悪化です。

まとめ
地震後の井戸水汚染は、
- 地盤破壊による地下水混合
- 液状化による濁質混入
- 下水・生活排水の漏出
- 地表汚染物質や海水の侵入
といった複数の要因が重なって発生します。外見がきれいに見えても、微生物や化学物質による見えない汚染が起きている可能性もあります。
そのため、大地震後の井戸水は、外観や臭いだけで判断せず、必ず水質検査を行い、安全が確認されるまでは飲用を控えることが重要です。これは被災後の健康被害を防ぐうえで、極めて重要なポイントです。


