海岸浸食とは、波や潮流、風、河川からの土砂供給量の変化などによって、砂浜や海食崖といった海岸の地形が削られ、後退していく現象のことをいいます。自然現象として古くから存在してきましたが、近年では人間活動の影響も加わり、各地で深刻な問題となっています。

まず、海岸浸食の基本的な仕組みについて説明します。海岸では、波が打ち寄せるたびに砂や小石が動かされます。穏やかな波は砂を浜に運び堆積させますが、台風や低気圧による高波や強い沿岸流が発生すると、砂が沖合へ運び去られ、浜の砂の量が減少します。この「削る力」と「堆積する力」のバランスが崩れることで、海岸線が徐々に陸側へ後退していきます。
特に影響が大きいのが、台風や冬季の季節風による高波です。短期間で大量の砂が失われることがあり、一度失われた砂浜は自然に回復するまでに長い時間を要します。岩石でできた海岸では、波が岩を直接削ることで海食崖が形成され、崩落を繰り返しながら後退していきます。
次に、人間活動との関係です。近年の海岸浸食の多くは、人為的要因が大きく関与しています。代表的なものがダム建設です。河川は本来、上流から砂や土を海へ運び、海岸の砂浜を維持する役割を担っています。しかし、ダムによって土砂がせき止められると、海に供給される砂の量が減少し、結果として海岸浸食が進行します。
また、港湾施設や防波堤、突堤などの人工構造物も影響を及ぼします。これらの構造物は波や流れを遮るため、一方では砂が溜まりやすくなりますが、反対側では砂の供給が断たれ、急速な浸食が起こることがあります。このように、局所的な対策が周辺地域に新たな問題を引き起こすケースも少なくありません。
海岸浸食が進むと、さまざまな影響が生じます。まず、砂浜の消失によって景観が損なわれ、観光資源としての価値が低下します。また、ウミガメの産卵地や海浜植物の生育地が失われるなど、生態系への影響も深刻です。さらに、海岸線が後退することで、背後にある住宅地や農地、道路が直接波にさらされ、高潮や津波による被害が拡大する危険性も高まります。
こうした問題に対して、さまざまな対策が取られています。代表的なのが、消波ブロックや護岸の設置といったハード対策です。波の力を弱めることで浸食を抑える効果がありますが、景観の悪化や生態系への影響が課題とされています。近年では、失われた砂を人工的に補充する「養浜」や、自然の地形を活かした「ソフト対策」も注目されています。

このように、海岸浸食は自然の作用と人間活動が複雑に絡み合って生じる現象です。単に海岸を守るだけでなく、流域全体の土砂の流れや自然環境との調和を考えた総合的な対策が求められています。海岸浸食を正しく理解することは、私たちの暮らしや自然環境を将来にわたって守るための第一歩といえるでしょう。


