過去の被災状況を「知識」や「他人の出来事」として眺めるだけでは、いざ自分が当事者になったときに十分な行動につながりません。災害の教訓を本当に生かすためには、被災の実態を**「自分ごと」としてストックし、必要な瞬間に引き出せる形で蓄積すること**が重要です。以下では、そのための具体的なポイントを整理します。

まず大切なのは、「被災地」と「自分の生活圏」を重ねて考える視点です。ニュースや記録を見る際、「どこで起きたか」だけでなく、「もし同じ規模の災害が自分の地域で起きたらどうなるか」を必ず考えます。自宅周辺の地形、川や海との距離、通勤経路、家族の行動範囲と照らし合わせることで、被災状況は一気に現実味を帯びます。地図を見ながら「この道路は通れるか」「この避難所まで何分かかるか」と具体化することが、自分ごと化の第一歩です。
次に重要なのが、結果よりも「過程」に注目することです。被害の大きさや死者数だけを見ると、「怖い話」で終わってしまいがちです。しかし本当に学ぶべきなのは、「なぜ逃げ遅れたのか」「なぜ助かったのか」という判断や行動の積み重ねです。例えば、「警報は知っていたが様子を見た」「家族を迎えに行って戻れなかった」「避難所が満員で引き返した」といった具体的な行動の分岐点を拾い上げることで、自分の行動基準が明確になります。
三つ目のポイントは、感情の動きを含めてストックすることです。恐怖、不安、迷い、後悔といった感情は、災害時の判断に大きく影響します。記録や証言を読む際、「その時どんな気持ちだったのか」に目を向け、「自分ならどう感じるか」を想像します。これは単なる共感ではなく、正常性バイアスや判断遅れを自覚するための重要な訓練です。感情を排除せず、あらかじめ想定しておくことで、非常時でも冷静さを保ちやすくなります。
また、情報と行動をセットで記憶することも欠かせません。「津波警報が出た」「避難指示が出た」という情報だけで終わらせず、「その時、どの行動が取られ、何が結果を分けたのか」を必ず紐づけます。これにより、「この情報が出たら、こう動く」という自分なりの行動テンプレートが蓄積されていきます。
さらに、ストック方法にも工夫が必要です。写真や動画、地図、簡単なメモを組み合わせ、「見ると当時の状況が一気に思い出せる形」で残すと効果的です。単なるファイル保存ではなく、「なぜ重要か」「自分への教訓は何か」を一言添えることで、記録は生きた知恵になります。
最後に大切なのは、定期的に見返し、更新することです。家族構成や住環境、仕事が変われば、同じ教訓でも意味合いが変わります。過去の被災状況を固定的な知識にせず、「今の自分ならどうするか」を問い直し続けることで、本当の意味で「自分ごと」として蓄積されていきます。

災害の教訓を自分ごととしてストックするとは、恐怖を集めることではありません。未来の自分と家族を守るための判断材料を準備する行為です。過去を正しく引き受け、日常の中に落とし込むことが、最も現実的で強い防災対策と言えるでしょう。


